侵略は免れたものの、鎌倉幕府には大きな課題が残っていました。恩賞問題です。当時鎌倉幕府は、幕府のために働いてくれた御家人に対し敵から没収した土地を与えて褒美にしていました。ところが蒙古襲来は敵からの侵略戦争だったため一片の土地も得られず、褒美として御家人に与えられるものがなかったのです。

限られた褒美を誰にどう分配するかとなった時、活躍の大きかった者に多く与えられるのは当然の理屈のはずでした。しかし現実には、武房に与えられたのは甲冑一式とわずかな辺境の土地ばかりだったのです。実はこの背景には霜月騒動と呼ばれる中央のお家騒動があり、この争いで武房が負けた側と親しくしていたからだと考えられています。

いずれにせよ、菊池一族の大きな戦功と犠牲には到底釣り合うものではなく、新たな所領に深い期待を抱いていた菊池一族にとって、幕府への不満を募らせる結果となったのでした。

菊池一族にとって蒙古襲来とは、侵略の直接的被害を受ける九州御家人としての存亡のかかった事件であると同時に、年代を追うごとに減らされてきた領地を回復するための絶好のチャンスであったはずでした。当代の当主として最大限の働きを示した武房にとって、ほとんど成果に繋がらなかったという現実が、いかに無念であったかは想像に難くありません。

このとき蓄積された感情が一気に芽吹くのは、やがて訪れる鎌倉幕府の終末期。倒幕への鏑矢の一端を担う菊池一族を突き動かす、大きな原動力となるのです。