ともに生きるということ
笑顔が生まれるとき
先日、お昼ごはんを食べようと食堂に入りました。にぎわう店内には、カウンター席と座敷、二人がけのテーブル席がありました。空いていたテーブル席に座ろうとしたとき、入口で車いすの方が店員さんと話しているのが目に入りました。「車いすのまま食事をしたいのですが…席はありますか」と話したようでした。店員さんは少し考えた後、「申し訳ありません。テーブル席が一つしかないので、しばらくお待ちいただけますか」と答えました。その後店主に相談し、私のところに来て「恐れ入りますが、この席を替わっていただけませんか」と声をかけました。
そのとき、私は車いすの方に席を譲ることを考えられなかったことに気づき、恥ずかしくなりました。「どうぞ、この席を使ってください」と席を譲ると、車いすの方は「ありがとうございます」とほほ笑んでくださいました。その笑顔を見たとき、私は改めて合理的配慮を提供することの本質に気づきました。
ともに生きる社会へ
「障害者差別解消法」という法律があります。この法律は、障がいのある方が困ったときに、合理的配慮を役所や企業が提供することを求めています。今回のように、車いすの方が利用しやすいように席を整えることも、その一例です。
でも、これは単なる決まりごとではありません。この法律は、だれもが安心して過ごせる社会をつくるために制定されました。人として尊重され、差別されることなく安心して生活できる権利である人権は、すべての人が平等に持っている権利です。そして、それを守るうえで大切なことは、他の人の人権を損なわないことです。
ですから、「助けてあげる」という考え方ではなく、「ともに生きるために工夫する」ということが大切だと思います。お互いのことを思い合いながら過ごすことが大切だと思うのです。
あの日、席を譲ったことで、車いすの方は笑顔になり、店員さんもほっとした表情になりました。そして、私自身も温かい気持ちになりました。関わった誰もが「一緒に生きている」と実感できたと思います。
どうすればほかの人の人権を尊重できるのかを考えることで、ともに生きる社会づくりへ歩みを進めていきましょう。
(文責:地域人権教育指導員 中原博昭)