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人権・同和教育シリーズ181(10月号掲載)

2020年10月01日

障がい者人権問題に思うこと

地域人権教育指導員

吉山義信(よしやまよしのぶ)

菊池市民意識調査(平成30年)で、人権侵害の問題として最も関心が高かったのは障がい者の人権です。問題点としては「障がいに対する理解が足りないこと」「就職、職場で不利な取り扱いを受けること」「職場、学校等で嫌がらせを受けること」等の回答がありました。私たちの周りではどうでしょうか。当事者はなかなか自分で声を上げることはできません。誤解や偏見をなくすためには周りの正しい理解や、よきパートナーとして、障がい者の社会参加を支援していく周囲の関わりが必要となります。

先日、知的障がい・精神障がいのある男性が自殺し、家族が「原因は自治会の役員の言動にある」として、地方裁判所に訴えたという記事を目にしました。訴状によると男性は統合失調症と診断され、知的障がいの療育手帳の交付を受け、一人暮らしをしていました。ある日、自治会の班長に選ばれる可能性があることを知り、自治会の役員に「精神の病気で班長ができない」と伝えました。しかし「特別扱いはできない」と言われ、班長候補から外すのに他の住民の理解を得るためにと、障がいの記載を求められ、「しょうがいがあります、おかねのけいさんはできません」等文書に書かされました。さらにその文書を住民に見せると言われ、翌日自宅で亡くなりました。この事件の判断は司法にゆだねられますが、「障がい者にとって生きづらい社会である」という厳しい現実がつきつけられているように思います。

障がい者に対する誤解や偏見は大人だけでなく子どもたちの意識の中にもあります。読者コーナーの中に「障がい者を笑った子=苦い記憶」という記事がありました。リハビリ散歩中、自分の前を歩いていた2名の女性の一人は体が不自由な人でした。正面から下校中の小学2年生ぐらいの2名の女子と出会った時のことです。二人の女性が「こんにちはー」と声をかけました。すると、少女たちはびっくりしたように立ち止まり、そして自分たちの頭をトントンと軽くつつき、大笑いをして走り去って行きました。女性に声をかけると「時々あるんですよ」と笑って答えたそうです。この方は目の前で起きた悲しい光景に、自分も同じように障がい者の友だちにひどいことを言って後悔した過去があります。この少女たちもこの日のことをいつか後悔する時がくるだろうと書かれてありました。

この記事を読んだ時、私はある子どものことを思い出しました。ある地域で陸上記録会があった時です。最後に全員リレーがあり、ある学校のチームの中に車いすで走る子どもの姿がありました。みんなが声援を送っている時、一人の女の子が傍に来て、「先生私、あんな人を見ると応援したくなる」と言ってきました。後日、母親にこのことを伝えましたら、「あの子はおばあちゃん子ですから」と話されました。そのおばあちゃんは「優しい人になりなさい」といつも言っているそうです。

数年後、この子と再会しました。老人ホームです。私の母が入所した時、廊下で車いすを押している彼女とばったり出会いました。偶然の再会を喜びながらあの時の言葉を思い出していました。「障がいは個人ではなく社会にある」と言われています。「応援したくなる」前述の自治会役員の中にこんな気持ちは誰も湧かなかったのでしょうか。

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