共感への感謝
申し出に応える
私事で恐縮ですが、6月に連れ合いが病気で入院しました。その際、4月に施行された「改正障害者差別解消法」が義務としている合理的配慮の提供を受けた出来事があったので、紹介します。
それは転院するときのことでした。私は歩行が困難な義母と連れ立って、病院から借用したカートで荷物を運んでいました。その日は雨で、私たちが玄関から出たときちょうど土砂降りでした。もし、駐車場まで義母と一緒にカートを押していけば、義母は滑って転倒するかもしれない。そのうえ、荷物も義母も、かなり濡れてしまうだろうと思いました。
病院玄関口には雨除けの屋根がありましたが、そこはタクシー乗り場・バス停留所であり、自家用車の乗り入れはできないようでした。「私一人で駐車場まで行って荷物を車に積んだ後、再度玄関まで戻ってきて、義母を車まで連れていく方法しかないな」と考えていました。
そのとき、義母が近くに立っていた警備員の方に「ここで車に乗ることはできませんか。よければ、荷物も積みたいのですが」と尋ねました。その方はすぐに、「何ができるか、上司に相談してきます」と答えてその場を後にし、その後上司の方と一緒に戻ってこられました。そして、「ここまで車を持ってこられてください。タクシーやバスが来たら私が誘導します」と快諾してくださいました。上司の方も、「お母さんと荷物は、私が見ておきます」と言ってくださったので、私は安心して車を移動させることができました。
共感への感謝
お二人に配慮していただいたおかげで、雨に濡れることなく荷物を積み、義母を乗車させることができました。私は警備員の方に頭を下げながら、荷物を積んでいたカートを病院まで戻そうとしたのですが、それさえも「私が返しておきます」と引き受けてくださいました。思わず涙が出ました。
他の来院者の安全を確保しながら、義母の障がいと私の不安に応えていただいたことに感謝しかありませんでした。
「思いあい」が出発点
人の立場に立って行動することは「思いやり」と言われます。私が病院で出会った警備員の方は、安全を保障する責任を果たしながら、義母の申し出を受け、上司と相談して組織的に動いてくださいました。無理のない範囲で、できることをする。「改正障害者差別解消法」はそんなあたたかく建設的な「話しあい」とともに、障がいのあるなしに関わらず皆が暮らしやすい社会をつくっていくための「思いあい」を求めていると実感した出来事でした。
(文責:地域人権教育指導員 中原 博昭)