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ともに生きる ‐パン作りに見つけた希望‐

2015年03月13日

林さんの1枚目の写真

 


 

菊池市身体障害者福祉協議会

会員天然パン工房「きぼう」(菊池市小木地区) 代表 林 正(はやしまさし)さん(55)

菊池市龍門の小木(陣内)地区で、石がまでパンを焼かれている林 正さん(55)。林さんは、突然の病気で左半身に障がいをもつこととなり、それから回復への努力ののちにパン作りを始められ、現在も社会参加と地域貢献を模索されています。

こちらでパン作りを始められたのはいつ頃からですか。

3年半ぐらい前からやっています。52歳の頃からですね。

これは石がまですか。

そうです、石がまです。自宅でパンを作ったけどなかなかうまくできなかったんですよ。他の石がまのパン工房なども見に行ったのですが、なかなか本物の石がまで焼かれているところがなくて、自分で本場の石がまでやってみようと思ったんですよ。石がまは、知り合いの左官さんに作ってもらいました。

林さんの2枚目の写真

 


 

この工房を作られるまでにはどのくらいかかりましたか。

工房を作り始めてから半年ぐらいですかね。東日本大震災のころに作り始めて、9月頃準備が整いました。それまでにパン作りの練習をして、作ったパンをパン屋さんに出したら「おいしい」と言ってもらえたんですよ。それから、お客さんにも出すようにしました。

どういったところで販売していますか。

林さんの3枚目の写真個人の方への販売が多いですね。直接自宅まで行って販売をしています。買いに来られない人もいるので私が行っているんですよ。特にお年寄りの人には買いに来ることができないので、自宅に行って話し相手になったりしています。あとは市役所とか老人福祉センターとか、数十ヶ所は行っていますよ。販売には利益は求めていません。材料代だけといったところですね。私たちが売っても利益になるような売り上げは上がらないですよ。ですから、安くておいしければいいかなという思いでやっています。おいしくなくて高いものだったら誰も買わないですからね。(笑)今日こねて、今日焼いて、今日のうちに売ってしまうといった感じでやっています。売れ残ったものは残念ですが処分しています。


パン作り(販売)は社会参加ですね。

そうですね。家にずっといるのは面白くないから外に出ていきたいという気持ちから販売をしています。

お年寄りのお話し相手とかされているということで、社会参加を通り越して高齢者支援をされている感じですね。

そんなことはないですよ。(笑)でも、長い時は1時間ぐらい話したりもしていますよ。それでお年寄りの方が楽しければいいかなと思っています。

パン作りで難しいところは何ですか。

現在パン作りは、火曜、水曜と土曜の週3回作っています。私のパンは、天然酵母で作っています。天然酵母は食品添加物が入ってないので、安心して食べられるのでいいんですよね。パンの生地も生き物ですから、日によってでき上がりが違います。同じ状態で作りたいんですが、天気によっても変わってきます。寒い時は暖めるのにも時間がかかりますし、そういった意味では冬場は特に難しいですね。天然酵母には、毎日えさと水をやらないといけないんですよ。その点も大変ですが、自然と健康にはこだわっていきたいですね。パンの写真

私のパンは、お客さんと一緒に作ってきたんですよ。お客さんから「固い」とか「柔らかい」とか要望をいただいて一緒に作ってきました。「障がい者の作ったパンはおいしくない」って言われることがあるんですが、それは絶対言われたくないですね。そういう思いで、おいしいものを作ろうと毎日頑張っています。

 


 

病気をされたのはいつごろですか。

47歳の時です。5月でしたね。職場のトイレで倒れました。昼休みに昼寝をしていた時に咳が出はじめたもので、周りの人にも迷惑なるのでトイレに行ったところで倒れんたんですよ。

よろしければ、病気になられた後のことをお聞かせいただけますか。

家族は落ち込んだと思いますよ。その時、子供は小学生でしたので、家族としてはいろんなことでとても心配だったと思います。私はただ「一生懸命生きて行くだけ」という気持ちでしたね。ただ、もちろん、将来どうなるのかなという気持ちはありました。医者からは車椅子生活になるだろうと言われていましたから。しかし、自分ではなんとか動けるようになりたいという思いがありました。その「思い」と「希望」だけはしっかりと持って治療を続けました。今は車も運転できるようになりましたよ。変な言い方ですが、逆に病気をしてよかったと思うこともあります。病気をしていなかったら、そのまま定年を迎えて、そのあと何をするかというと、こんなパン焼きとかできなかったと思います。病気したから「何かしなければいけない」と思い、パン焼きを始めることができたと思っています。

リハビリなどをたくさんされたのですか。

余計にはしていません。余計にしたから早く治るというものではありませんからね。私としては、時期がくれば何とかなるかなという思いでリハビリしていました。お医者さんもこのような回復は想定されてなかったんじゃないですか。お医者さんからは、私が階段を登り降りしている姿を見て「ここまで回復するとは思っていなかった」ということを言われていましたね。

パン作りはお母さんと2人でされているんですか。

母親は健康維持のためにやっている程度ですよ。

林さんの5枚目の写真

 


 

パン作りを始めようと思われたきっかけは何ですか。

このような体になった自分に、何かやれることはないかなと思ったところからですね。退職したら、その商店街で惣菜屋か何かしたいなと思っていました。しかし、こういう体になったから料理はできないけど、パン作りだったらできるかなと。体が動けば薪を取りに行ったり、何とかやっていけるんじゃないかと思ったところです。もちろん、パンを作ること自体には技術の習得はいりますけどね。(笑)陣内地区には、筍があったり栗があったり、たくさん自然のものがあります。将来はここで販売ができたらいいなというふうにも思っています。

パン作りの他には何か活動されていますか。

特に今は何もしていません。やりたいけどなかなか今はできませんね。しかし、今年は初めて5月の熊本県障がい者スポーツ大会に申し込んだんですよ。何もしないでじっとしていたくないので、何かに参加していきたいという思いで今回申し込みました。スポーツ大会のことは、菊池市身体障害者福祉協議会の中で知りました。また、私の知り合いの障がい者の人にも、家でじっとしているんじゃなくて社会参加をするようにと、障がい者スポーツ大会の参加に誘ったりしています。

将来的には地域活動とか参加したいですか。

きぼうの看板の写真少しずつ何かやれたらいいですね。ここ(陣内地区)は私の実家ですから、将来はここで何か活動できたらいいなと思っています。こちらの地域の人の役立つような手伝いができたらと思っています。

 


 

皆さんにメッセージをお願いします。

障がい者の人には、とりあえず家にじっとしているんじゃなくて外に出てきて欲しいですね。そういう環境作りを手伝っていきたいですね。できるだけ、家にいる障がい者に声をかけていきたいというふうに思っています。



パン作りと共に生きていくことを決め、片手で薪をくべながら、障がい者の社会参加、また高齢者への気遣いなどについて話される林さんからは、物静かな語りの中に「希望」という強い気持ちはしっかりと感じ取ることができました。

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