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人権・同和教育シリーズ193

2021年10月01日

どのような社会を創るの

地域人権教育指導員

宮川伊十(みやがわ いじゅう)


「今年の敬老会は中止します」。

私の住んでいる区で連絡が回ってきました。いつもなら70歳以上の高齢者が一堂に集い、顔を見て笑い合い、語り合い、踊りや歌で盛り上がる楽しい行事です。新型コロナワクチン接種を2回終え、今年こそはと楽しみにしていた方もおられましたが、お年寄りを守るために下した主催者の苦渋の決断でした。

令和3年6月末日現在の菊池市における65歳以上の人口は、16210人で全体の34%を占めています。まさに超高齢社会(65歳以上の人口が全人口の21%を超えた社会)です。その中で3603人の方が独り暮らしをされています。家族や生活を守るために懸命に働き、今の社会を創ってきた人たちです。中には65歳を過ぎてもなお、社会貢献をされている人が数多くおられます。

今、この国で、どれだけの人が老後のことを心配なしに生活されているでしょうか。

私も百歳に近い母と一緒に生活しています。動きも危ういし、子や孫たちの名前も出たり出なかったり。半面、子どもの頃の話は昨日のことのように鮮明です。時に曾孫たちと遊び、化粧をし、歩行器を使って生活する日々。それでも年々衰えていくのはどうしようもない事実です。そんな姿を見ながら、これからの社会に対する不安がよぎります。

「子どもの権利条約」をご存じでしょうか。54条から成りますが、大きく4つに分けられます。その条文の「子ども」を「高齢者」に置き換えると「高齢者の権利条約」(仮)ができそうです。

  • 「生きる権利」・・すべての高齢者の命が守られ、生きる権利がある。
  • 「育つ権利」・・高齢者は、能力を十分に伸ばし、医療や生活の支援を受ける権利がある。
  • 「守られる権利」・・高齢者は、暴力や搾取、有害な労働などから守られる権利がある。
  • 「参加する権利」・・高齢者は、自分に関わる決定に参加し、自由に意見を言う権利がある。

私たちの周りには、コロナ禍で家から出ることもできず、家族とも会えず、ワクチン接種の手続きもできない高齢者の方がたくさんおられます。その方々とあなたはどう接していますか?前述の権利は、当然のものです。家族や地域での支えあいがあってこそ、誰もが幸せになれるのではないでしょうか。

先日、社会学者の上野千鶴子さんが「超高齢社会を生きる」という題で最終講義をされている放送を見ました。その中で4点、「安心して弱い者になれる社会を!」「安心して要介護者になれる社会を!」「安心して認知症になれる社会を!」「障がい者になっても守られる社会を!」との提言がありました。この表現には、社会情勢の変化で、お互いを傷つけあっている社会の現実が背景にあります。最後に、「この世のことは、この世で解決しよう。解決できる問題は、人の力で解決しよう」。そして「こんな世の中にしてごめんなさい。と、言わなくてすむ社会を手渡したい」の言葉で締めくくられました。

上野さんの提言される社会こそ、誰もが安全に、安心して暮らせる社会ではないでしょうか。誰にでも訪れる老後、そこにある不安をなくすことは、今を生きる私たちの役割です。

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