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人権・同和教育シリーズ180(9月号掲載)

2020年09月01日

今こそ、あたたかい地域づくりを

地域人権教育指導員

稲田京子(いなだきょうこ)

報道と人権

「ねえ、おかしかて思わんだった?県内の温泉施設を利用されたコロナ感染者の方が亡くなられた時、その報道で、その方が生活保護を受けていたとか住所不定とか報道されていたけど、その方の個人情報をここまで出したのは、人権侵害て思わんだったね!」と言われて、はっとした。毎日のコロナ関連の情報を鵜呑みにしていたのだ。ウイルスを感染拡大させないという思いで、クラスター情報に、日時や地域・場所などが公表されてきた。生活情報については、公表することが必要であったろうか。この報道のあり方を前述の本市在住の方は訴えていき、その後、マスコミでは検討された。報道が個人の尊厳を遵守しているか注視することが大切だと教えられた。

誹謗中傷、国籍を越えて

県内の感染した方が周りの誹謗中傷のために、一家で転居された。住まいも仕事も奪われたのだ。ある市では、感染防止のために市が備蓄していたマスクの配布対象から朝鮮幼稚園を外したり、コロナ禍で困窮する学生支援のための「学生支援緊急給付金」対象から朝鮮大学が外されたりした。一方、滋賀県知事は地元の朝鮮学校へ激励のメッセージを添えてマスクと食糧を贈呈した。すべての人の人権を守ることが、地域全体の健康や生活を守り、安心・安全な地域づくりになると信じたい。

差別や偏見を越えて

熊本市で、自身の感染後、店主が店名を公表した記事を読んだ。客が来なくなるかもしれないという不安の中、周りの差別や偏見に対する不安を払拭する家族の支えと、顧客に感染を広げたくないという強い思いによって葛藤を乗り越えていかれた。2割の人が、差別的な反応であったが、8割の人は、「よく公表してくれた」「再開したら絶対行くよ」という励ましの声だったそうである。これまで以上に、消毒に費用をつぎ込んで、今に至っておられる。再開後、苦情は一件もないそうである。店主の勇気ある行動を尊敬するとともに、偏見・差別をする側になりたくないと痛感した。

排除を越えて

先日、菊池恵楓園入所者の方が、電話で、「コロナ禍において、恵楓園で学んできたことを思い出して欲しい」と言われた。強制隔離政策の中で、ハンセン病に罹った人の家族までも、予断や偏見で忌避・排除してきた過ちを二度と繰り返してはならない。自分がコロナに感染したくないという思い、病気に対する不安や恐怖は誰しもあるだろう。しかし、自分や家族が感染したらそれだけで苦しいのに、自分の情報を必要以上に流され、自分や家族が地域から排除されたら、こんな二次的被害には耐えられないはずだ。コロナ禍でこれまで心の底にあった様々な差別の意識が見え隠れしている。一方、これまで培ってきた人権意識・判断力・勇気・なかまとのつながりも見えている。相手の命や人としての尊厳を守り、誰一人排除しない、あたたかい地域づくりを共に推し進めよう。


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